序ノ幕『再会』
『赤木さん…っ!!』
ああ、意識が…
遠退いて―
遠退いて―…
遠退いて―…‥
気が付いたら、俺は道に立っていた。辺りを見渡すが、そこは極楽にも地獄にも見えない。極々普通の民家が建ち並ぶ道である。
「なんだ…。冥土ってーのは意外と辛気臭ぇ所だな。生前と変わりゃあしねぇ…」
つまらない…─
思わず溜息が出た。死んだお陰で記憶と視界ははっきりしたがこんな生温い世界にいたんじゃ腐っちまう。
(あの人がいたら…)
ああ、掠れていた記憶が今ははっきりと見える。久しい顔。アンタが掠れたから俺は死を選んだんだ。
「市川さん…」
アンタの事を忘れた俺なんて生かしておきたくなかった。ったく…こんな事言ったら笑われるな、きっと。
「呼んだか?」
そうそう、こんな声できっと俺の事を馬鹿とかガキとか言って罵るんだ………って…
「え…?」
振り返れば後ろにいた。…ぬらりひょんかよ、アンタは。
「市川…さん…?」
「ったく…折角静かだったってーのによ…」
市川はふんと鼻を鳴らして口角を上げた。そして、サングラスの奥の瞳を細める。
「もう来ちまったのかい?赤木君」
思わず抱き着いていた。久しぶりだ。嬉しい。アンタに会えた事が心の底から嬉しい。
「おいおい、多少は歳食って来たかと思ったのにあっという間に若返りやがったな…」
彼の言葉で気付いた。目線が変わっていた事に…。ああ、懐かしい感覚。いつもこうやってアンタを見上げていた。
「どうだ…手前の一生、全う出来たか?」
「ああ…勿論」
仲間に恵まれ。敵に恵まれ…。最終的には両方に看取られて逝った。少なくとも昔の俺からは想像出来ない自分がそこにいたに違いない。
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