Act.1『出逢い』3
「『も』…だと…?」
再確認に少年は薄く笑む。そして『うん』と短く肯定を口にした。彼の境遇など市川が知った事ではないし、別に一人だからといって驚く事もないのだが…声を聞く限りに幼い彼が己と同じ『独り』だという事に何故か興味を掻き立てられたのである。
「…俺も、一人」
彼は一歩踏み出す。じゃり…と砂粒が擦れ、市川はぴくりと耳を揺らした。
「お前…正体は…?」
「見れば分かると思うけど…」
あ、見えないんだっけ…。先程の彼の話を思い返して少年が言葉を漏らした。
「ああ、目暗なもんでな…形は目ぇ以外の感覚に触らせねぇと理解出来ねぇんだ……」
その言葉に少年は目を細め、ゆっくりと歩みを寄せる。そして市川の手を取った。
「ふふっ…好きに触りなよ。減るもんじゃないし…俺を理解出来るまでさ」
彼の声色は楽しそうである。全くもって変わったガキだな…コイツは…。
しかし、それを相手にする儂も、また変わり者に違いない。
「ほら、早く…」
その言葉に促され、彼は少年の柔肌に手を滑らせた。腕、肩、首、頬…そして毛髪。さらさらとした感触のそれに指に絡ませ長さを知る。そして人あらぬ位置にある彼の耳へと触れれば、ぴくりとそれが揺れた。
「…くすぐったい……」
「やはり耳は過敏か」
「アンタも…?」
まぁな。そう言葉を告げながら市川はまた彼の身体に指先を滑らせる。
「ん…」
衣服の上から背骨をなぞり尾低骨から生える尾に触れた。意外と毛量のあるそれに同族ではない事を知る。そして、触り心地に正体を知った。
「……狐か」
その言葉に少年はきょとんとして言葉を失う。数秒後、彼はくすりと笑った。
「…何で分かったの?」
分からないと思ったのに。少年はつまらなそうにそう呟いた。市川は不適に笑い過去の記憶を口にする。
「昔、町の服屋で狐の襟巻きに触れた事があってな…」
「あー…人間って好きだよね。そういうの」
気分悪げに言葉を漏らし狐は小さな溜息を吐いた。市川は予想通りの行動をする彼を鼻で笑い、触れていた手を離す。
「しかし…何故、化狐のガキが人喰い狼なんぞに会いに来たのかね…?」
その言葉が癇に障ったのか少年はむすくれて反論を返した。
「ガキじゃない」
彼は不機嫌そうに告げ、感情を露にする様に尾を振り鳴らす。
「クク…手前なんてまだまだガキさ」
「…」
狐はむすっとし、口を噤んでしまった。数秒の沈黙。
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