Act.3『兆し』
「町に行ってくる」
そう告げれば、何時もは『行ってらっしゃい』と見送る言葉が返って来ていた。
そう、『何時もは』の話。
「俺も行きたい」
「…何だと?」
突然の事に疑問を口にしてしまったが、儂に彼を止める理由も無い。故に、二人で町に出向く事になった。
―
町に着いて小一時間は経っただろうか、彼は大人しく儂の買い物について来ていた。赤木を連れて行ったのが初めてだった所為か様々な知り合いに話し掛けられ、多少心地が悪い。一例を上げるなら『お孫さん?』と聞かれるのが心外でならなかった。
「ねぇ…市川さん」
「ん? 何だ?」
「ちょっと用事が出来たから…行って来ても良い?」
用事…? 疑問を抱いたが問う事はしなかった。了承を返せば『遅くなるから先に帰って良いよ』と告げた狐が気配を消す。
何時も通りの一人だ。嗚呼、独りだ。
「……酒…か」
そう呟き向かった先は馴染みの酒屋。飲みはしない…。酒を買って、店の主人と他愛のない会話を交わす。それだけだ。
「おー、市川さん。いらっしゃい。久しいじゃないか」
「ああ、最近面倒を抱え込んでな…」
くすり、聞き慣れた笑い声が聞こえる。
「女かい?」
「いや…んな可愛いげのある物じゃねぇよ…」
「ああ、知ってるさ。あれだ…手前が連れてたって言うガキだろ?」
「何だ…知ってたのか」
何時も店に篭っているコイツさえもが知っているなんて…誰か噂を回している馬鹿がいるんじゃないか?
「ああ勿論さ…ここには色んな情報が集まるからな」
愚痴る馬鹿に酒に口を滑らせる馬鹿…。後は…噂を回して楽しむ馬鹿か。人間というのは本当に面倒臭い生き物だな。
「アンタに良く似たガキらしいじゃないか」
「へぇ…似てるのか」
「………そうか、そういや見えねぇんだったな」
多少申し訳なさそうな声で主人が言った。気にしていないと言うのに…思い込みで人間は謝罪を口にする。何百年も経っているんだ、今ではもう…これが日常。それだけに過ぎない。
「らしくねぇな…んな事、儂はもう気にしちゃあいないさ」
「相変わらずさっぱりしてんなぁ…流石は市川さんだ」
何が流石なんだか…。思わず鼻で笑ってしまう。
「おいおい笑うなよ…」
「クク…悪いな」
こんな会話が三十分程続き、終いに儂は酒を買って店を後にした。賑わう町に溶け込んでいる己が異物の様に思える。しかし、あながち間違いでは無い。
どんなに親しくしようとも人間の中にいる儂は確かに異物なのだから…―
―
ざあ…ざあ…
風に嬲られ木々が鳴く。普段通りの帰り道。
赤木はもう帰っているのだろうか…、そんな事を考えながら林を歩いていた。
「…ぁ……あ」
微かな声だった。遠く、ずっと遠くの方から何か…変な…声が聞こえる。
何だこの声は…聞き覚えがあるそれがやけに耳に付いた。そして、引き寄せられる。聞き覚えのある声に誘われ、儂は森の深くに足を踏み込んで行った。
段々と大きくなるそれ……そして、気付いてしまったそれが誰の声なのか…。
これは…
あの狐の声だ…―
‥…―続
───
あとがき
さあさあさあ、次回は裏です…!(テンション高いな)
早く書き上げてサイトにアップしたいと思います(^ω^)
2010.4.7
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