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酔いどれ。3
 

また満たされて行くそれは光りを反射してキラキラと瞬き、器の底を煌めかせた。

「…お前も飲めよ」

平山は今更ながら今日の目的を思い出す。
そうだ。赤木が飲まなきゃこの計画は達成しない。自分ばかり飲んでたら先に潰れちまう。

「飲んでるさ…、何時も通りにな」

彼がコップに口をつけると八割を満たしていた酒が多少減り、その喉を流れて行った。

「ゆっくり行こうぜ…、時間はまだまだあるんだから…な」

赤木の唇に付いた雫が舐め取られる。その瞬間に覗いた赤い舌…、それはあまりにも妖艶で。平山は彼から目を話すことが出来なかった―



───



結局先に潰れたのは平山だった。二人で空けた熱燗は五本。その内の六割を飲んだのは平山である。

(全く…)

気付かないとでも思っていたのだろうか。最初から『俺を酒で潰そうとしている事』には気付いていた。…本当に分かりやすい奴。
平山が俺の事を好いてる事だって知ってる。気付かれてないと思ってるのは本人位…なんじゃないか。
そんな事を思いながら赤木は平山に目を落とす。テーブルに突っ伏している彼は既に夢の中。酒と疲れが効いてぐっすりと眠りに堕ちた事だろう。
赤木は居酒屋に入ってから五本目の煙草を吹かし終える所だ。少量の酒が残ったコップは既に冷めきっていて時間がどれ程立ってしまったのかを現しているようだった。

「ふぅ…」

溜息。起きる気配さえない平山を、赤木はじっと見つめる。
彼は本当に鈍感な男だ。自分の気持ちがばれてる事にも、その馬鹿馬鹿しい作戦がばれてる事にも気付かない…。
そして、今だに…


俺が平山の事を好いているという事実にも気付かない―


飲みに誘っていたのはお前の事が好きだったから……なんて言ったら彼は喜ぶだろう。
だから言ってやらない。俺が折れて喜ばれるなんて癪だ…。

(さっさと気付けよ…)

ふふっ…。赤木は静かに笑い、灰皿に五本目の煙草を押し付けた。



…―了

2010.2.8

 

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