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酔いどれ。
 

終業時間間近、赤木が仕事を終えたのを見計らい平山は声をかけた。

「今日、飲みに行かないか…?」

彼は初めきょとんとしたが直ぐに妖艶な笑みが覗き、言葉が返って来る。

「珍しいな、お前から誘って来るなんて…」
「最近誘われてばっかりだったし…たまには、な…」

先週も先々週も…、平山は赤木に誘われ会社近くの居酒屋に飲みに行った。正直な所、平山はあまり酒は得意じゃない。が、好意を寄せる者に誘われたなら行かない訳がない。

「ふぅん…、そんな事気にしなくてもよかったのに…」
「ま、まあ…そんな深い意味は無いからな…」

平山の言葉を聞いた赤木はその笑みを浮かべたまま、目を細める…。
何かを見透かされるような…肌粟立つ感覚。

「ふふ…分かってるよ。あるとしても下心位だろ?」

ギクリ。この擬音が平山の脳内に浮かぶ。所謂図星。
酒絡みの事だったら互いに酔っていたからと、事故という言い訳を使う事が出来ると彼は考えていた。相手が泥酔していたのなら自宅に持ち帰るのも容易である。
もしかしたらと夢を見るなら、平山はこの関係に発展が訪れる事も期待したりしていた。

「平山…、顔が引き攣ってるぜ?」

図星か、そう言ってニヤリと笑んだ彼の挑発的な雰囲気に胸が高鳴る。思わず言葉を失っていた平山は慌てて否定を口にした。

「ち、違っ…!」
「クク…まあ、いいや。…行こうぜ」

しかし、赤木が荷物を纏めて先に歩き始めてしまった為、最後まで告げる事が出来ずに早足で彼の背を追い掛ける結果となってしまった。



───



がやがやと騒がしい居酒屋。狭い座敷に通された俺達はテーブルを挟んで向かい合わせに腰を下ろす。そして、店内の熱気に煽られ互いに上着を脱ぎ捨てた。
メニューへと手を伸ばした赤木は見慣れたそれをパラパラと捲って酒のコーナーを開き、そのままテーブルの上に置く。

「何頼む?」

そう問われた平山はメニューに目を落とした。…のだが、シュルという音につられ無意識に顔を上げてしまう。

「…!」

音の原因を目にすれば思わず口を手で覆った。シュルとはネクタイを緩める音…シャツの間からちらりと見える赤木の肌に何処か艶めかしささえ感じてしまう。平山は唇のにやけが収まらず、手を外す事が出来なかった。

 

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