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酒興。
 

「ねぇ…市川しゃん」
「…は?」

一体何が起きたというのか、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
その原因は市川の背後にいる赤木である。

「んふふ…」

彼が背にすりすりと擦り付いてくる所為だ。普段の印象とまるで違う上に、その触れ方が何時もよりもベタベタしていて気持ちが…否、気味が悪い。

「纏わり付くな」
「やらぁ…」

呂律が回っていない言葉、通常よりも高く感じる体温。そして、極めつけは酒の臭い…。ここまで物が揃えばいくら鈍い者でも気付く。

「赤木…お前飲んだな?」
「んー…飲んでらいよ…?」
「嘘を吐くな、このクソガキが」

明白な嘘に彼は赤木の頭を小突いた。
ガキのくせに酒なんて飲みやがって。しかも何でその面倒抱えて家に来やがる。
思わず溜息。酔っ払いの面倒等疲れる他、得られる物がない。

「ふふ…市川しゃん、冷らい…」
「だから、纏わり付くなと言っているだろうが…。ったく…誰だ、こいつに飲ませたのは…」

市川は抱き着いて来る赤木の頭を押し、離れるように促すがそう簡単に彼は離れない。
暑苦しくて堪らなかった。彼が素面なら殴ってでも引き剥がすが…酔っ払いにそんな事をする程非道でもない。

「ねぇ、らいて…?」

苦笑が漏れる。熱を帯びたその声だ、本当に誘っているのだろう…が、酔っ払いを相手にする気など彼には毛頭ない。

「けっ…酔っ払いが何言ってやがる」
「いーからぁ…」

普段でさえ色欲が強い癖に酒が入り更にその色が強くなっているように感じる。
全く…相手にするのさえ面倒臭い。

「じじぃー…」
「…」
「ねぇ、じじいったらぁ…!」
「ああ、もう…!じじいじじいうるせぇな、この酔っ払いのクソガキはっ…!!」

あまりのしつこさに声を荒げた市川だが赤木は特に気にする様子でもない。寧ろ構って貰えたと喜んでいるようだった。
その反応に今のは失敗だったと自分の行動を悔やむ。

「えへへ…」

刹那、胡座を欠いていた足の上に重み…。

「おい…儂の上に座るな」

眉間の皴が深くなる。彼には市川の表情が見えている筈だ。が、酔っ払いに何をやっても無駄だったと今更気付く。
…面倒を抱え込まされる身にもなってみろってんだ、このド畜生が……。
心底に溜まるドロドロとした本心に胸やけを覚える気もした。そんな中…

「らって…」

舌っ足らずな言葉がまた発せられる。少年の片耳を引っ張りながら老人はその声に耳を傾けた。

 

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あきゅろす。
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