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11月某日。
静雄さんが海外に引っ越す僕に記念として某煙突より高い位置から池袋の景色を見せてくれた。
だけど、その方法が僕をぶん投げるとはいかがなものだろう。静雄さんは本気だったから断るに断れなかったし。
まあ、色んな意味で忘れられない思い出になった。
主に突風とかいつもより重い重力とか寒さとか水の冷たさとか痛さとか、あと、光に照らされた池袋とか。
そして―――その次の日のこととか。





「……さんじゅうくど、か……」
右手に持っている体温計に表示されている数字をぼんやりと読み上げる。その声は何時も以上に小さく、掠れて弱々しい。
頭は圧迫されるように痛むし喉はひりひり痛むし咳や鼻水はひどいし身体の奥底から寒いのに暑苦しいし食欲ないしだるいし関節がなんか痛む、つまり完全な風邪だった。
原因はあれだろう。着衣状態での寒中水泳、そして濡れたまま家に帰ったことだろう。
静雄さんの無鉄砲さには驚いたが、それよりも無計画さに呆れた。僕をプールに落としてからのことを全く考えてなかったらしく、プールから上がった僕を見て「……あ、」と声を漏らし、目線を逸らした。
家に来るかと誘われたけど遠慮しておいた。それでも家まで送ってくれたけど。タクシーで。さすがにずぶ濡れで電車に乗るのはいささか気が引けた。いやタクシーも気が引けるけど、静雄さんのご厚意を無駄にする訳にはいかない、し。
「………はぁ」
暇だし本でも読もうとして枕元に置いてある本を取ろうと身体を捻って体勢を逆向きにした、ら。
「………」
「………」
「え、あ、……静雄、さん?」
窓越しにくすんだ金髪を見つけて、よく目を凝らしたら静雄さんで、窓に近寄って更によく観察したらじっ、と此方を見ていたので思わず声を掛けてしまった。
でも掠れた小さな声じゃ聞き取れなかったらしく、眉をひそめたのが見えた。
静雄さんは手で拡声器を作る仕種をした。すぅ、と息を吸う音がここまで聞こえた。
……妙な予感が。
「吉宗ぇ!!!」
いきなりの大声に思わず耳を塞ぐ。
え、ちょ、窓ガラスがビリビリ震えてるんですが。静雄さんって肺活量も凄いの?
そんなとりとめのない思考さえも掻き消すかのように声が届いた。
「元気!!―――ですか!!」
いや何故丁寧語なんですか静雄さん。
「俺は!!―――吉宗がっ!!―――心配で!!―――来た!!」
息を吸う為であろう、途切れ途切れになっている言葉が、少し心に刺さった。
僕も何か返さなきゃ、と思って、口を開いて息を吸って―――
「―――っ!」
出てきたのは―――僕が咳き込む音。
窓枠にすがり付きながら身体をくの字に丸めて咳が止まるのを待つ。吐き気と呼吸のしづらい状況で二重に苦しい。眼にじわりと涙が浮かんだ。

「―――吉宗っ!?」
先程より大きく、もっとはっきりした声がした。
次いで暖かい大きな手が背中を撫でる感覚がした。……ちょっと痛いけど、なんだか安心できて。
程なくして僕の発作(っていってもただの咳なんだけど)は収まってきた。
冷えてきた頭で冷静に状況を確認すると、ふと疑問を感じた。
―――静雄さん、どっから来た?
未だに背中を撫でてくれている静雄さんを見上げる。
眼が合った途端、静雄さんは安心したかのようにはにかんだ。―――窓枠の上で。
僕は気にしないことにした。うん、ここは二階だとか、窓枠のサッシがひしゃげてるだとかなんて、知らないよ、うん。
軽い現実逃避に陥っている僕を静雄さんは軽々と猫を持ち上げるかのように抱えるとベットに横たえた。他人事のように考えてるのは僕自身身体に力が入らなくなって動けなかったからなんだけど。
布団を被せてもらって、ぽんぽんと頭を叩かれながら(なかなか痛かった)プリン買ってくると言って窓枠に足をかけた(そういえば土足……もういいや)
そして―――何故か僕の右手は宙をつかんでいて。右手は彼を掴もうと企んでいたらしくて。
その行動の意味を自覚したことで僕の体温が上昇した気がした。これ以上体温が上がったら大変なことになりそうな気がするけど、まあいいや。
ふと、思わず彼の名前を呼んで。振り向いた静雄さんの顔を見たら、するりと素直な気持ちが口から溢れて。
「―――はやく、もどって、きて、くださ、い」
気づいたときにはもう言葉を発していて。
今更込み上げてきた恥ずかしさに布団を頭から被った。







(布団で視界が隠れる前に見えた)
(その輝くような笑顔が今でも忘れられない)












*あとがき*
本当に申し訳ないです。
なんかこう……一体何を言いたいのかさっぱり分からない←
時間軸はよく分からない時間です。てかゲーム上ではありえない時間帯、のはず。

企画『always lover』様に提出です!こんな内容ですみません←


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