ちゅ、と触れるだけの。 (……綺麗な顔) キスの直後の至近距離で見つめ合う。 最近ようやくキスをするようになった俺たち。まあキスといっても、まるで子供のようなえらくフレンチなキスなのだが。 す、と昌也の顔が遠ざかる。その横顔を目で追うと、ちらりと寄越した昌也の視線がちくりと刺さる。 基本的に無表情、なんだよな。 「…何?」 ぶっきらぼうな声。 せめてキスの直後くらい、愛想良くしたらどうなんだ。 「前から思ってたけど」 「…うん」 「ずいぶんフレンチ、だよな」 昌也の部屋でぼんやりとテレビを眺める。 俺、中村 充と、こいつ、楢橋 昌也。 出席番号が氏名のアイウエオ順のお陰で、寮の部屋割りが隣同士。昌也と付き合うようになってからは、昌也のルームメートを俺の部屋に追い出し、こうやって二人でまったりする時間が多くなった。 「もっとがっついてもいいのに」 誰に言うでもなく、ぽそりと呟く。 男女問わずイヤラシイこともそれなりにヤってきたので、物足りないといえば物足りない気もする。たまにはこういう、純情っぽいのも良いのかもしれないが。 「…我慢、してたんだけど」 その時。 長い沈黙の後で反応しきれなかった身体が、ぐらりとバランスを崩した。 「そんな風に言われたら」 俺に覆い被さる昌也の顔に陰が落ちる。 「歯止め、きかなくなるだろ」 無表情なその瞳の奥、ギラついた光がちらついている。今まで見たことのない、昌也の、獣。 『我慢、してたんだけど』 数ヵ月前のあの日ことを思い出す。 好きで、好きで、大好きだった人に別れを告げたあの日。 あの人の隣にいられればそれでよくて、身体だけの関係でも幸せで、あの人が他の誰かを愛していたとしても気にならなかった。それなのに、時が経てば経つほど、想いは欲張りになっていって。あの人はこっちを向いてはくれないのに、呆れるくらいに依存して、ボロボロになるまですがりついていた。 「…ごめん」 「…別にいい」 何だか申し訳なく、目を伏せると昌也も目をそらした。 その表情がたまらなくなって、昌也の首元に腕を回す。顔を引き寄せ、唇を合わせた。そのまま角度を変え、啄むようなキスをする。 けじめをつけるきっかけをくれた昌也。泣き崩れる俺を支えてくれた昌也。 俺を好きだと言ってくれた昌也。 あの人を忘れられないというのに、それでもいいと言ってくれた昌也。 どこまでも気を遣わせてしまっていたようだ。 「…昌也、好きだ」 頬を撫でると、するりと手が落ちていく。昌也はその手を掴んで、絨毯の床に縫い付けた。 「…いいのか?」 「…いいよ」 そして、瞼を閉じる。 「………ありがとう」 俺が発した言葉のはずなのに、何故か俺の耳には昌也の声のような音が届いた。 ほどなくして、昌也の優しいキスが降ってくる。唇が濡れてから、するりと舌が入り込んできた。 ちらりと目を開けると、穏やかな表情の昌也と目が合う。 ちくりちくりと胸を刺すあの日の想い出も、いつかの青い春の記憶になればいい。 そんな小さな期待を抱きつつ、再び、目を閉じた。 ==アトガキ== 二度目の参加になります、ヒサヨシと申します。 悲恋ぽいタイトルですが、甘いお話にしてみました。 いつもはこの子たちの他に高校生ズをメインでお話を書いてます。気になった方はどうぞいらして下さい(^^)ノ お読みいただきありがとうございました! *master*ヒサヨシ *HP*http://nanos.jp/wrkrt/ [back] |