窓際の席の不思議さん

僕が通う高校は普通の高校だ。
俗に言う王道学園とかじゃなくて、ただ普通の高校。
そんな高校で僕は、同性を好きになった。

「東里くん!」
東の里と書いてとうり。とうり かなめくん。
東里くんは僕の席の一列おいた斜め後ろで、窓側の列の一番後ろの席だ。
東里くんは何度席替えをしても必ずそこにいる。
というか、席替えにすら参加しないで、ずっとそこで窓の外を眺めている。
その横顔が死ぬほど格好いいっていうのは僕だけの秘密。

震える足で、震える声で、今日は少しでも距離を縮めてみたくて声をかけた。
東里くんは窓の外から視線をはずして、ゆっくりとした仕草でこっちを向いた。


東里くんが光ってる!!


初めて真正面で向き合って顔が赤くなるのを感じた。
東里くんは声をかけたくせに何も言わない僕を不思議そうに見ている。
何か、しゃべらなきゃ!

「えっとね、その、あの、……」
やばい、何を言うのか忘れた!
なんだっけ、距離を縮めたくて何を言おうとしてたんだっけ!
……えっと、その、ね。
どもったあげくまたしても何も言わなくなった僕をまだきょとんとして東里くんが見つめる。


東里くんがまぶしい!!



「ぐふっ!?」
一人で盛り上がっていると後ろから首に腕が回されて、絞められた。
苦しい!
「おいおい、そんな奴に話しかけちゃダメだぜぇ?」
苦しいってば!!
って、その声は
「アキ!?」
バッと後ろを振り向くと案の定アキがいて、ラを付けろと怒られた。
まったく、うるさいんだから。

そのままアキラに引っ張られて、東里くんから離れていく。
東里くんはもう窓の外を眺めて、
――いない!こっちを見てる!!
東里くんがこっちを見ている。すごく悲しそうな瞳で。

僕はアキラの腕を振り払った。
教室のドアから一番端っこの席というそう遠くない距離を全力で走った。
後ろからはアキラの声が聞こえたけど無視!
東里くんのこと悪く言うアキラなんて嫌いだ!

僕は途中で足をもつれさせてスライディングをするように東里くんの机横まで来た。
膝が痛い!
けど、そんなこと構っていられなくて、乱れた呼吸を整えて、東里くんを見つめた。
東里くんは驚きの目で僕を見てくる。

「東里くん!」

僕は、君の窓の外を眺める瞳が格好いいと思う。
だから、そんな悲しそうな目をしないで。
僕は、君の今にも笑いだしそうな優しい瞳がみていたいから。
僕は君について、外を眺めるときの瞳が優しいことしかしらない。
でも、

「君が、好きなんだ!」


僕は叫んでいた。
そう、叫んでいた、昼休み中の教室で。

僕の言葉でざわつき始める教室。
いろんな人が僕を見てくる。
「あいつホモだったんだ」「キモイね」
「よりにもよってなんで東里?」「まじきもいね」
僕への中傷が広がっていく中、

「俺は、君のことを知らない」

単調な東里くんの声だけが僕の耳に入った。
脳裏に焼き付くような声。
声までカッコイイだなんて反則!!

「俺は、嫌われている」
「え!?そうなの!?」
静かで落ち着いた東里くんの声とは対照的なバカみたいに大きい僕の声。
教室にいた人がさっきとは違う驚きで、
東里くんはもっと驚いた表情で僕を見てきた。
えっ?


「東里くんが嫌われてるなんて僕には関係ない。だって、僕が東里くんを好きだから!」

グッと拳を作って右わきに添えると、東里くんがそっか、と言って笑った。
笑った。
……笑った!?
「と、ととととと東里くん!今、笑った!?初めて笑った!?」
「……あ、うん」
僕のテンションのせいか、東里くんの表情が消えてしまった。
僕のバカっ!!
自分を叱咤して、深呼吸をしてから無表情になった東里くんと目線を合わせた。
「東里くん、もう一回笑って?」




東里くん、君が好きだよ。
僕も君のことは何も知らないけど、けど、僕は君に近づきたいから、
そのためなら何だってするから。

君はきっと暗くて重い何かを背負っている。
だけど、僕はその何かを知らない。
僕は君について全然知らない。
だから、君のことを一つ知るたび、もっと君を好きになる。
君が僕を見てくれるたび、君としゃべるたび、
今までは知らなかった君のことを知って行くから、
君に近付けるから、
どんどん好きになる。
君はまだ、まだまだ不思議くんで、僕の知らない秘密を持っている。
けど、それでもいい。
少しずつ、知って行くから。


「東里くん、おはよう!」
「…おはよ」

東里くんの登校時間は早い。
まだ誰も来ていない教室で一人で窓の外を眺めている。
そんな東里くんの時間に僕も参加した。
何もしゃべることもないけど、ただずっと、窓の外を眺めている君を見ているだけだけど。
それだけで僕は幸せなんだ!

ひとつ。
東里くんの登校時間は早い。

それからもうひとつ。
東里くんは、僕の前では笑ってくれるようになった。

あぁ、もう、大好き!





END

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