デレはどこいった
「デレがない……」
「……は?」
春も終わりに近付いて、暖かな風が吹くお昼時。急に隣に座っていた陽奈(ひな)が呟いた。
唐突な呟きは意味不明で、俺が自然と変な顔になったのは仕方ないことだ。
「いきなり何だよ……意味わからん」
「明斗……一度でいいからさ、俺にデレてくれよー。“好き”って言って――げふぅっ!?」
「一回三途の川まで行ってこい」
俺の拳が陽奈の鳩尾にクリーンヒットした。ざまあみろ。恥ずかしいことばっかり言うからだ。心中で呟いて、俺は悶絶する陽奈を放置して教室に戻った。
笹木 陽奈(ささき ひな)は俺――兎田 明斗(うさだ みんと)の幼馴染みであり……恋人でもある。
いつからかは覚えていないけれど、陽奈と俺はいつの間にかそういう間柄になった。
自覚のないまま、俺は陽奈の告白に頷き、そして痛感している。
同性同士の恋愛の難しさ、複雑さ、それと、自分の自覚の無さを。
素直になれない。ツンデレ。
俺は所謂そういう属性の性格らしい。
らしい、と言うのは、俺はまったくそんな自覚がないし、陽奈が勝手に言っているだけだからだ。
正直言って、これくらいが俺たちの関係には丁度いいと思っている。
冷めていると陽奈には泣かれるけれど、人前でべたべたするなんて俺には無理だ。
陽奈と過ごす時間は楽しいし、それなりに充実している。
しかし、学校で、しかも人前で矢鱈とイチャイチャしたがる陽奈の気持ちはまったく理解出来ない。
「なぁ〜……明斗ぉ……」
「……」
「み・ん・と〜」
「……」
「大好き、明斗!」
「暑苦しい」
一応俺の意見を尊重しているらしい陽奈は、人気のない教室とか廊下でしか抱き着いてこない。
俺の肩口にふさふさの金髪が乗っかっている。柔らかい猫っ毛は最近染めるのをサボっているのか、根本の方が黒かった。ダサいプリン頭だ。
デカい図体の陽奈はまるで大型犬のようだと思う。
俺になついて尻尾を振る。ちょっと躾の行き届いていない駄犬。
まあ、そういう所が気に入っているので、俺はとやかく言わない。
何か言ってしまえば、途端に陽奈は気にしてこういうスキンシップをしてこなくなるだろう。
人前でなければ、俺は基本拒まない。嫌いではないこの触れ合いは、“素直になれない”俺にはおねだり出来ないから。
「明斗のデレはどこいった……俺へのデレは……」
「そんなもんない」
「ちぇー」
心の中ではデレてるけどな。
口には出さない俺の本音が、いつか陽奈にも届けばいい。
もう少し、このまま中途半端な関係も悪くないと思った。
End
今回も素敵なお題に参加出来て光栄です。
有難うございました^^
*master*黒屋オセロ
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