がたん、という音がして激しく机が揺れる。
その勢いで立ちあがった奴はおれの顔を睨んだ。
おれの隣に座る奴も怯えながらおれを止めようとするが、おれは生憎止められて止まる人間ではない。
「てめえ…馬鹿にしてんのか。クラス委員長だからって良い気になってんじゃねェぞガリ勉」
「おれはガリ勉のつもりはない。それなりに努力した結果だ」
「うるせェ」
一気にクラス内が険悪ムードになり、おれは構わず奴の目を睨む。
その目が綺麗で、つい見惚れそうになってはっとする。
まだだ、まだ待たなければ。
「君たち、喧嘩するなら後で」
「あァ?黙ってろ」
「まだ授業中だから、その」
「うるせェ」
うるせェしか言えない馬鹿は、止めに入った教師に睨みを利かせる。
気の弱い教師がびくびくしながら縮こまったのを見て、おれは溜息をついた。
「お前はそれしか言えないのか」
「………」
おれの声を聞いて、野獣の様な目でおれを見据える。
光るピアスがちらつく金髪をなびかせて、奴はそのまま教室を出て行く。
教室内ではほっとした空気が流れたが、おれは少し焦っていた。
まだ、まだか。
時計を見る余裕もなくそう思っていると、やっと。
キーン、コーン、カーン、コー…
「っ」
「あ、授業終わっちゃいましたね…って、水野(ミズノ)くん!?」
「すみません!」
驚いた教師の声が後から聞こえるが、おれには言いわけを言う余裕もなかった。
そして、駆けだす。
約束の、あの場所へ。
*
そのドアを開ければ、強い風がおれの顔を撫でつけた。
きょろきょろと屋上を見回せば、見覚えのある派手な金髪が目に入る。
居た。
そう思って早足で近づけば、先程まで睨みあっていた目と視線が合った。
「来たか」
「…ああ」
先程までの射る様な視線ではない、柔らかい目で笑顔を浮かべる奴を見ておれは柄にもなく赤くなった。
そして、手を引かれるまま奴の隣に座る。
「今日もお疲れ様ー」
「お前こそ。立った時、机に足ぶつけたろ」
「……バレてたかァ」
喋りながらゆっくりとお互いの指を絡める。
あたたかいぬくもりに目を細めれば、いつの間にか近づいたのか耳を噛まれた。
切れた痛みが走って、おれはびくっと身体を竦ませた。
「…いたい」
「可愛い」
「………嬉しくない」
うそ、本当は嬉しい。
何を言われても、嬉しい。
おれたちは、クラス委員長と不良という犬猿の仲だ。
いや、正確的に言えば「だった」。
こうしていがみ合っている内に仲良くなって、仲良く…なりすぎたというか。
そんな仲をクラスにどう説明しようかとなった時に、奴が面白そうだからいつも通りの演技をしてやろうと言ったのだ。
好いている相手に罵声を浴びせるのは心引けるものがあるが、奴が楽しそうだからおれも乗っている。
だからこそ、おれはいつも待っているんだ。
「仁(メグミ)、」
「何だァ?優斗(ユウト)」
「……ちゅー、しよう」
「お前から強請るなんて珍しいじゃねえか。うっかり勃」
「だ、黙っ……」
馬鹿な事を言う仁の方を向けば、楽しそうな仁におれの方が黙らせられた。
そのまま押し倒されて慌てたが、まあまだ良いだろう。
次のチャイムまで後十分。
それからはまた同じ事の繰り返しだ。
だが、おれはこの関係が気に入っているんだ。
「……仁、」
「何だァ」
「………好きだ、」
「…俺もだ」
チャイムが合図の、甘い関係を。
そう思って、おれはゆっくりと仁を抱き締めた。
END
お題は初めてだったので、どきどきしながら書かせていただきました。
参加させていただきありがとうございます。楽しかったです。
*master*蛹(さなぎ)
*HP*
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