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Short Story
1
カーテンの隙間から漏れる朝日が瞼の裏からでも眩しくて、三成は目を覚ました。
二人で寝ても広々と横になれるから、とキングサイズにしたベッドにはしかし、今は三成一人しかいない。ぽっかりと空いたスペースに手を這わせると、そこに政宗の温もりはもう残っていなかった。
三成は、朝が強いわけではない。だが、普段であれば三成のほうが早く起きるのだ。相手は昨夜、散々に抱かれた身である。目を覚ます、という点に限れば、政宗は三成よりも早く目覚めるが、如何せん身体の怠さが活動を鈍らせるのだ。
しかし、珍しく今日は政宗のほうが早く起きているらしい。
三成はまだまどろみを貪っていたい欲求を必死に堪え、ベッドから抜け出した。寝室を出れば、こうばしい香りが鼻腔をくすぐる。卵でも焼いているのだろうか。だが、フライパンの上で何かを炒めている音に、澄んだ音色がまぎれていることに首を傾げた。疑問を払拭させるために台所を覗くと、そこには見慣れた政宗の後ろ姿があった。
気配に気がついたのだろう。視線が向くと同時に音色が止み、政宗は声をかけた。

「Morning.まだ時間かかるから先に顔洗ってこいよ」
「…さっきのは何だ」

スクランブルエッグを作る為に、菜箸でフライパンをぐるぐると混ぜていた政宗の手が一瞬止まる。三成の問いの意味がわからなかったのだろう。

「さっきの?」
「口笛を吹いていただろう。吹けるんだな」
「別に珍しくないだろ?口笛くらい」

三成からの返答はない。それで、政宗は納得した。
三成は口笛が吹けない。吹けないところで人生で何か影響があるわけでもないが、しかし、政宗にできて自分にできないことがあるというのが、少し悔しいとも思う。
その三成の内心を察したのだろう。目の前のフライパンを放置するわけにもいかないので、政宗が三成に自身の横に来るように手招きした。

「いいか?こうして、唇をすぼめて…」

何かものを教えるときは、まず見本をみせてから実践させるのが一番手っ取り早い。
真似るように三成がやってみせるが、フーッ、と空気が抜けるような音しかしない。音が出る場所を探すように口周りの筋肉の力の入れ方を変えたりと試行錯誤するが、なかなか政宗のような音は出なかった。
三成ができるようになるまで付き合うつもりなのだろう。政宗は、彼の前でお手本だ、とずっと唇を口笛を吹く形にしたままでいる。
自身よりも目線が上の三成を見上げるために、上向いた顔。
―――あとは、瞼さえ閉じてしまえば、口づけを強請られているようなものではないか、と想像してしまうのは、仕方が無いことだろう。
突然、口笛の練習を止め固まってしまった三成を、政宗はいぶかしんだ。しかし、彼が突然思案に溺れることなどよくあることであったので、朝食の準備に戻ろうと視線をフライパンに戻そうとした、そのときである。

「…むぅ、っん!」

前触れ無く、三成が長い腕で政宗を抱きしめ、その唇を奪った。咄嗟のことで驚き、抵抗する間もない。政宗は閉じ込められた腕で、なんとかコンロの火だけ止めた。
舌が口内に浸入し、粘膜を嬲っていく。
昨夜、深く愛し合った朝からこんなことをされては堪らない、と政宗が抵抗を始めたが、拘束する腕の力が強まりそれは許されなかった。下半身に集いはじめた熱は無視できないものになってきている。
三成も高ぶっていることを、政宗は感じていた。密着した身体に、彼の熱があたる。

「んんっ!んぅ〜〜!!」

口づけをしたまま、政宗の身体が三成に抱きかかえられた。三成はチーターのような細くともしなやかな筋肉を持っており、その見た目より筋力がある。政宗を腕にしながら危なげなく歩く足取りで向かう先は、寝室であった。
ベッドに降ろされるときに、ようやく口づけが解かれる。
抗議の眼差しで政宗が三成を見上げるが、まるで知らん顔だ。

「あんな顔をしている貴様が悪い」
「…わけわかんねぇ」

突拍子もない行動をする三成に、政宗は観念したように脱力した。
珍しく早く起きたというのに、結局またベッドに逆戻りし、政宗はこの日も昼前まで寝ていることとなった。

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あきゅろす。
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